2026年6月13日開催予定の「縮充に挑む実践者の集い2026」。当日は5つの取り組みを発表していただきます。

 

5つの取り組みは、課題先進地である村上地域で実践しているだけに、「課題解決先進事例」でもあります。どこが注目のポイントなのか?取り組みの背景・概略も含めてご紹介します。

山北地区における「移動」をめぐる20年の再編史

新潟県村上市山北地区。日本海と山々にはさまれたこの地域では、長年にわたり「移動」が暮らしそのものを左右してきました。高齢化、豪雪、集落分散、公共交通の縮小。車を運転できなくなることは、そのまま「病院へ行けない」「買い物へ行けない」「地域で暮らし続けられない」ことを意味していました。

 

そのなかで山北地区では、行政だけでも、病院だけでも、住民ボランティアだけでもない、独特の「地域交通システム」が形成されています。

 

その中心は、

●山北徳洲会病院(現・山北徳新会病院)の送迎バス

NPO法人おたすけさんぽくを核とした「共助」の仕組み

●村上市の地域交通施策

の三者です。

 

山北地区の取り組みは、単なる交通政策の話ではありません。「地域で暮らし続けるための仕組み」を、20年近くかけて作り直してきた歴史でもありました。

交通問題が大きな地域課題として顕在化

1990年代後半から2000年代にかけて、旧山北町(現在の山北地区)では高齢化と人口減少が急速に進みました。山北地区はもともと集落が点在し、豪雪も多い地域です。そこに路線バス利用者の減少が重なり、公共交通の維持は年々厳しくなっていきました。

 

特に深刻だったのが高齢者の移動です。自家用車依存が強い地域では、免許返納や身体機能低下が、即座に生活困難へつながります。「通院できない・買い物へ行けない・外出できず孤立する」といった問題が広がり、交通問題は単なる移動の問題ではなく、「地域で生き続けられるか」の問題へと変化していきました。

病院送迎バスが「地域の足」に

こうした中、山北徳新会病院(当時は山北徳洲会病院)では、集落巡回型の無料送迎バスが運行されていきました。一般的な病院送迎は、駅と病院を結ぶシャトル型が多いものです。しかし山北地区での送迎は、

●集落を細かく巡回

●曜日ごとに運行

●高齢者利用を前提

●山間部にも対応

という、極めて生活交通に近い性格を持っていました。

 

当初はあくまで患者送迎でしたが、地域の実態としては、「病院送迎がなければ移動できない」住民も少なくありませんでした。つまり病院送迎は、制度上は私的送迎でありながら、実態としては地域交通として機能していたのです。

住民主体の移動支援への最初の挑戦(2005年)

一方、地域側でも移動を支えようとする動きが始まっていました。2003年、有志住民によって「福祉の町づくりを考える会」が発足し、高齢者の生活課題や外出困難についての調査・学習が行われました。

 

その流れから2005年に設立されたのが、「NPO法人おたすけさんぽく」です。同年には外出支援サービスも開始されました。これは現在でいう「住民主体移動支援」に近い取り組みでしたが、残念ながらこの挑戦は長くは続かず、サービスは開始から短期間で休止となってしまいます。

 

NPO法人おたすけさんぽくが始めた有償移送サービスは、早速、地元新聞が取り上げてくださったのですが、紙面に記事が掲載されたその日のうちに、運輸局から「その取り組みは白タク行為に該当する」という指摘の連絡が・・・。

 

当時、対価を得て送迎を行うサービスを行うためには、厳格な規定・条件が多々あり、これをクリアしなければ違法行為になってしまう状況でした。つまり、住民の善意をベースにした有償での移送サービスを行おうにも、制度的な壁に阻まれて実現が困難な状況だったのです。

 

さらに、保険や安全管理の問題、そして広域低密度地域ゆえの採算困難も重なり、地方移動支援の根本的な難しさが一気に噴出し、山北地区はここで一度、「地域住民だけで交通を支える難しさ」に直面しました。

新しい村上市誕生と広域交通問題(2008年)

2008年、村上市・山北町・朝日村・神林村・荒川町が合併し、新しい村上市が誕生しました。広大な自治体となった村上市にとって、山北地区は典型的な「交通不採算地域」でした。市は、路線バス維持・デマンド交通・のりあい交通などを模索していきますが、現実には「既存の公共交通だけでは維持していくことは非常に困難」という状況が強まっていきました。その一方で、病院送迎は地域で機能し続けていました。

「通院」から「生活支援」への転換点(2014年)

2014年前後、山北地区ではさらに大きな変化が起きます。地域商店の減少によって、「買い物困難」が深刻化したのです。

 

これを受け、村上市・山北商工会・病院・地域団体などが連携し、「買い物困難者対策」が進められました。その象徴が「さんぽく出張商店市」でした。病院敷地に移動販売を集め、住民が買い物できる仕組みをつくり、その際には病院送迎バスが買い物利用にも活用されました。

 

【参考】2015年(平成27年)9月28日 徳洲新聞 NO.999

 

当時、送迎バスは全9コースで運行されていましたが、ここで病院送迎は「通院・買い物・高齢者交流」を同時に支える存在へと変わっていきました。つまり、「医療送迎」が「地域生活交通」へ変化したのです。


交通再編のきっかけとなった「地域交通を学ぶ会」(2021年)

2021年、山北地区では「地域交通を学ぶ会」が2回シリーズで開催されました。(主催:NPO法人おたすけさんぽく)これは単なる勉強会ではありませんでした。背景には、路線バス維持困難・運転手不足・高齢化深化という強い危機感がありました。

 

重要なのは、この頃になると地域の認識が大きく変わっていたことです。2005年当時は、「移動支援を試してみる」段階でした。しかし2021年には、「交通がなければ地域が維持できない」という認識が共有されていました。

 

この「学び直し」が、後の交通再編へとつながっていきます。


「さんぽくん」として再出発(2023年)

2023年10月、NPO法人おたすけさんぽくは、交通空白地有償運送「さんぽくん」を開始しました。2005年の挑戦から18年。制度も、地域理解も、多主体連携も成熟した中での再挑戦でした。

 

これは単なる福祉輸送ではありません。病院送迎や行政交通だけでは埋めきれない部分を、地域自身が補完する仕組みだったのです。

 

自家用有償旅客運送(通称:ボランティアタクシーさんぽくん)

ボラタクさんぽくん(村上市のHP)


そして2025年、病院送迎は「公共交通」に

最大の転換点は2025年に訪れます。村上市では、雷・勝木線の路線バス再編に伴い、山北徳新会病院の送迎車両を活用した「混乗型交通」が導入されました。これは、病院利用者だけでなく、一般住民も利用できる仕組みです。

 

国土交通省はこれを、「地域病院の外来送迎機能を公共交通へ転換した事例」として位置づけています。つまり山北で起きたのは、「病院送迎が結果的に地域交通になった」のではなく、「病院送迎を制度的に公共交通へ組み込んだ」という、全国的にも珍しい交通再編だったのです。


山北モデルの特色

山北地区で展開されたのは、単なる交通政策ではありません。

●村上市の制度交通

●病院の医療交通

●NPOの生活交通

●商工会の買い物支援

●地域住民の相互扶助

が重なり合った、「地域生活維持システム」だったのです。しかもこの仕組みは、最初から成功したわけではありません。2005年に一度挫折し、病院送迎に支えられ、地域で学び直し、18年かけて再構築されてきました。

 

山北の歴史は、「移動を守ることは、地域で暮らし続けることそのもの」であることを、静かに示しています。

【参考】

村上市・山北地区の公共交通

https://www.city.murakami.lg.jp/soshiki/13/sampoku-kotsu.html

 

NPO法人おたすけさんぽく・令和7年交通関係優良団体大臣表彰

https://wwwtb.mlit.go.jp/hokushin/content/000363431.pdf

 

一般社団法人徳洲会&山北病院

「路線バス「徳洲会バス」運行開始 外来送迎車を活用し地域のSDGsに寄与」

https://www.tokushukai.or.jp/media/newspaper/article.php?newspaper_number=1525&article=1&number=3


都岐沙羅パートナーズセンターの関わり

NPO法人おたすけさんぽく設立のきっかけとなる「福祉の町づくりを考える会」の活動を、当時、官民協働で実施していたコミュニティビジネス育成プログラム「都岐沙羅の元気づくり支援事業(※)」で支援したことから始まりました。これ以降、NPO法人設立支援などさまざまな場面での助力を行ってきました。

 

そして、大きな転換点となった2021年の「地域交通を学ぶ会」では、地域づくり・地域交通の専門家である若菜千穂氏(NPO法人いわて地域づくり支援センター常務理事)を招聘するともに、学習会の全体コーディネートも担当。この学習会がきっかけとなり、若菜氏は山北地区の地域交通再編におけるコーディネーターとして継続的に参画しつづけてていただき、現在の地域交通の再構築が実現しています。

 

 

※都岐沙羅の元気づくり支援事業とは?

新潟県と広域市町村が協働で実施する「ニューにいがた里創プラン」の岩船地域版の中で実施したコミュニティビジネス育成プログラム。事業プランを公募し、審査会を経て助成金を出すという、現在は全国各地で実施されている「公募型・起業プランコンペ」の先駆け的な取り組み。